第12章 1+2+3+4+5=(国見英)
「えっ?」
「あー………ほら、最近休み時間にも作ってるじゃん。インターハイ近いからでしょ?」
「うん、そう……どうせなら、面白いのがいいかなって……オリジナルのゆるキャラお守り。選手の人数分………」
そこまで言ってなまえが口を閉ざした。
2人の間に沈黙が流れる。
家に帰っても夜更かしをして作っているから、だから授業中に寝てるんだろ。なんて言おうとしたけどやっぱりやめて、国見は黙って顔を逸らした。
「あ、あの、国見くん。この皮だけの八ツ橋さ、これも食べる?開けていい?」
「…………別に、みょうじの好きにすれば」
言った直後、なまえが袋を開封した。沈黙を誤魔化すための照れ隠し。
国見も無表情を装って、2つめの塩キャラメル味を右手で掴む。
「皮だけでもむにむにしてておいしいかも。国見くんも、1枚どうぞ」
「俺はいまこっち食べてるから」
「いらない?」
「…………いただきます」
断りきれずに、空いている方の手で1枚つまんだ。普通の八ツ橋よりも皮が厚めの、もちもちとした正方形。
それを三角の形に畳んで、反対側の手に持った塩キャラメル味と見比べてみる。
皮だけの方は、まるで中身を入れ忘れた不良品みたいだ。
中身の詰まった三角形と、何も入っていない空っぽの三角形。三角、三角……
「……円じゃないのか」
「ん?」
「いや、なんでもない」
「国見くんて、なに考えてるかわかんないや」
「よく言われる」
塩キャラメルの方を口に入れる。甘さとしょっぱさが区別がつかないくらいに混ざり合って、1つの味になって舌の上で溶けていく。
「やっぱり、外側だけじゃ物足りないかも」
いつの間にかなまえも国見の真似をして、2種類両手に持っていた。「中身があったほうが、私は好きだな」
えへへ、と幸せそうに笑う彼女を見て、一瞬頭が真っ白になる。気がついたら、俺も、と口走っていた。
「俺も好き」
「え?」
「やべ、」
言ってしまった。
えっ……えっ?あっ!となまえがまた真っ赤になる。「そ、そうだよね。やっぱし餡子が入ってないと………」
「いや、違うくて」
言ってしまったものはしょうがない、と国見は瞬時に開き直った。「俺、なまえのこと好き」