第12章 1+2+3+4+5=(国見英)
「へっ!?」
「ダメ?」
「だっ……!っていうか急にどうしたの!?」
「急じゃないよ。前からずっと好きだった」
告白する予定はなかったけど、と言葉を紡ぐ。口をぱくぱくさせているなまえの様子が金魚みたいだったので、そこに八ツ橋の皮を詰め込んでみる。
「ふ、ふひみふん!?」
「ごめん、面白い顔だったからつい」
ぷっ、と思わず吹き出すと、ごくんと喉を鳴らしたなまえが「国見くんって、」と目を潤ませて俯いた。「国見くんって、ほんとになに考えてるかわかんない………」
「よく言われるけど、俺、そんな変かな」
「変だよ。興味なさそうな顔して意外と見てるし、いきなり告るし」
「でもみょうじのことだけだよ。俺がちゃんと見てるのは」
顔を覗き込んだら、なまえは小さく呻いて両手で覆い隠してしまった。
「ズルいよ国見くん、それは反則」
「嫌ならはっきり断って。無理に付き合われても、嬉しくないし」
「嫌なわけ……っ!」
ガバッと顔をあげたなまえがまた沈黙する。国見に至近距離で見つめられて、茹でダコみたいになっていた。
畳み掛けるように、国見はぐっと身体をなまえに寄せる。その直後、まぁいいや、と呟いて立ち上がった。
「返事はまた今度でいいよ。あんまり急かしすぎると、ひっくり返って嫌われちゃうし」
「えっ、帰るの!?このタイミングで!?」
「うん、ご馳走さま」
「ま、ま、待って!」
ペースについていけないなまえが慌てて立ち上がる。「ちゃんと言うから!私の気持ち、言うから待って!」
足を止めた国見は「大丈夫?」と眠そうな目で彼女を振り返った。「無理しないでいいよ」
「だっ、大丈夫!言うからだから、その代わり、」
だんだん早口になっていったなまえは、ぎゅっと目をつむって一息で言い切った。「私がちゃんと好きって言えたら、今日一緒に帰ってもらっていいですか!?」
勢いよく頭を下げる彼女。
国見から、はぁ、と間の抜けた声が出た。
それってほぼ返事になってんじゃん。
突っ込むべきか、突っ込まざるべきか。
少しの間悩んだ後、落ち着こうと大きく深呼吸を繰り返すなまえが再び口を開くのを、国見は黙って待つことにした。
おしまい