第12章 1+2+3+4+5=(国見英)
「ありがとー。国見くんが残ってて助かった」
帰る準備を終えた頃、コピーを終えたなまえが教室に戻ってきた。感謝の言葉と共に返されるファイルを受け取りながら、なぜか紙袋を3つ腕に下げている彼女をじろじろ眺める。その視線に気が付いたのか「修学旅行のお土産だって」となまえが笑った。
「2年生の教室の前通ったら、先輩達に捕まっちゃって」
「あぁ……昨日帰ってきたんだっけ」
部室でしおりを眺めていた1つ上の先輩の顔を思い出す。今日は月曜日で部活がないから、国見はまだ2年生に出会っていない。大方、明日の練習の後にでも自慢話と共に京都土産を押し付けられるんだろう。
「それにしてもみょうじ、ずいぶんもらったんだね」
1人がもらうにはやけに多い量の紙袋に、思わず人差し指を向けてしまった。「サッカー部って、部員多いの?」
「え?うん。そこそこ……かな」
「まぁ、マネ1人だもんな。特別扱い、みたいな感じか」
1年生だし、と言ってからハッとする。なまえがぽかんとした顔でこちらを見ていた。
「国見くん、私がサッカー部のマネージャーってよく知ってたね」
「知ってるよ、そりゃ……」
言い淀みながら、視線を落とした。「同じクラスなんだし」
「そっか。そりゃそうだよね。国見くんて、あんま私に興味ないかと思ってたからびっくりしちゃった」
ごめんごめん、と明るく言って、なまえは空いていた隣の席に腰掛けて、国見くんも食べる?と紙袋の中を漁り始めた。
「先輩たちさぁ、何も相談しないで個別で買っちゃったんだって。だから見てよ、ほら」
「八ツ橋ばっかり!」と長方形の箱をどんどん机に重ねていく。「こんなの私ひとりじゃ食べきれないよ。国見くんも手伝って。甘いの好きでしょ?」
「別にいいけど……でも俺のお土産も、たぶん同じな予感がする」
大量に積まれていく箱に国見は呆れ返ってしまった。見事に全部生八ツ橋。それぞれ違う店で買ったのか、サイズも色もバラバラだ。
「もー。先輩たち変な味ばっか買ってきてるよ。普通の味が1つもないや」
苺、チョコレート、梅、さくら……と順番になまえが読み上げていく。「マンゴーとラムネまである!」
けたけた笑いながら見比べていた彼女だが、ふいに、あっ!と1箱持ち上げた。