第1章 まるでオーストラリアのサンタみたいに(赤葦京治)
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「い、いいですよ。そんな気を遣わないでください」
「気にしないで。これは私のわがままだから」
慌てる赤葦くんを無視して壁に並んだマフラーを順番に触っていく。マフラーは肌触りが命だ。そしてカシミヤでなくてはならない。
「買ってもらうなんて悪いです」
「大丈夫。後で木兎に請求しとくから」
タータンチェックかストライプか。彼のコートに重ねて相性を確かめる。「今日の埋め合わせに、定価3割増しでね」
「それは余計に……!」
「ううん、これもイマイチだな」
次のハンガーへ手を伸ばす。なぜ私がこんなことしているのかと言うと、話のネタが尽きて困った赤葦くんが、実は昨日誕生日だったんです、とカミングアウトしたからだ。しかもイベントごとに関心のない彼は誰にもそれを言わず、いつも世話をしている木兎からも完全に忘れ去られていたらしい。
誰からもプレゼントをもらってないなんて可哀想すぎる。今こそ私の世話焼きの本性を発揮すべき時ではないのか。そう思って私は彼をショップの中へ引きずり込んだ。さあ選べ。選べないなら私が選ぼう。
「そんな高いのじゃなくてもいいですよ。寒くなければなんでもいいです」
「見た目と手触りは大事です。そんなんだから赤葦くん、こんなの平気で着てるのね?」
そう言って彼の着ている黒いダッフルコートの袖をつまんだ。今日会った時から気になっていた。ボタンが1つ取れそうなのだ。私に腕を固定されて、窮屈そうに手の甲あたりを覗き込んだ彼はそのことにようやく気が付いたのか、僅かに頬を染めて視線を逸らした。
「ね、これ、巻いてみて」
1本のマフラーを手にとって差し出した。グレーと黒の、ヘリンボーン柄のマフラーだ。黙ってそれを受け取って首にぐるぐると巻く赤葦くん。あーだめだだめだ見てられない。せっかくスタイル良いのに勿体ない。