第11章 空間期の合間にロマンス(東峰旭)
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「ねぇ、さっきの殿方、何とおっしゃる方なのかしら?」
参拝を終えて神社から出た後、おみくじから顔を上げたなまえが呟いた。空気に溶けていってしまいそうなほど透明な声だったから、旭は一瞬、誰のことを聞かれているのかわからなかった。
「あの灰色がかった髪の毛の人、」
「あぁ……スガのこと?」
「スガさんって言うの?」
「菅原孝支って言うんだよ。ひょっとしてなまえ、」
気になるの?
尋ねたら、彼女はもじもじと照れて伏し目になった。びっくりして小さな手の中に握られた紙切れを覗き込むと、吉、と書かれた下に”恋愛:直感を信じなさい”となんとも絶妙な助言が記されていた。
「いやいや、それはどうだろう」
「えぇっ……ダメかなぁ?」
「俺は、なまえとスガは合わない気がする」
言いながら、それよりもさっきからなまえの足取りが覚束なくなっていることのほうが気がかりだった。家を出る時まではらんらんと輝いていた両目も、今はまぶたが重そうだ。昨日の夜からずっと動きまわっているのだから、当然と言えば当然だけど。
「初詣も済んだし、もう帰ろう、なまえ。家まで送ってくから」
「やだ。このまま初売りセール行くもん。旭に荷物持ってもらう」
「最初からそのつもりだったわけね……でも、徹夜は流石に身体に悪いよ。買い物はまた明日にしよう」
な?と背中の花柄模様に手をかざしたら、やだやだ、となまえが首を横に振った。
「ちょっとだけ。ちょっと買い物したら帰るから」
お願い、と懇願されても途中で倒れてしまったら大変だ。少しだけ考えた後、だったら、と旭は提案をした。
「少し休憩してから行こう。そこのファミレスで朝ごはん食べて、元気になったら初売りに行こう」
ちょうど近くにあった店を指さすと、わかった。となまえは頷いた。
2人でガラス扉を押して、通された席へと向かい合わせに腰を下ろした。