第10章 ときめきのピストルを空へと向けて(澤村大地)
「なんでお前が泣くんだよ」
驚いた大地の、大きな左手が私の頭を優しく撫でた。だって、と言おうとしたら喉が詰まった。「だって、大地があそこに」
「いないよ、俺は」
「いるよ、あの背番号1」
涙でぼやけた視界には、たしかに18歳の彼がコートに立ってる。
「……かっこいいね」
「うん?」
「あの頃の大地、かっこいいよ」
「がむしゃらだったけどな」
「がむしゃらでも何でもいい。どうして私、高校生の時に大地と出会えなかったんだろう」
大地と一緒に、高校でバレー部やりたかったな。
気持ちがあふれて止まらなくなる。おいおい、と大地が呆れて私の肩を引き寄せた。「泣くんじゃないって。これからはずっと、なまえと一緒にいてやるんだから」
「でも大地、バレー選手になりたかったでしょう?」
「なりたかったよ。でもさ、そっちの道に進んでたら、今頃お前とこうしてここに立ってることもできなかったし、」
その夢を叶えないのは、挫折とはちょっと違うから、と、大地は言った。「他に叶えたい夢ができたからだよ。俺が夢中になれる場所は、バレーのコートの中だけじゃないから。お前だってわかってるだろ?」
その質問に、私は無言で頷いた。
「これから先は、お前も一緒にがむしゃらになるんだぞ。そこんとこちゃんと覚悟できてるわけ?」
うん、とまた頷く。わかってるならよろしい、と大地が私の目元を拭う。我慢できずに、その大きな手に自分の指を絡ませたら、2つの指輪が控えめな音をたてて重なった。