第10章 ときめきのピストルを空へと向けて(澤村大地)
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「お土産、ほんとにこれで大丈夫かなぁ?」
仙台市体育館を後にしながら、私は紙袋の中を覗き込んだ。平気だろ。と大地がそれを無理矢理奪う。「俺と同じで、食い物ならなんでも喜ぶからさ」
「ご両親を犬みたいに言っちゃだめだよ」
「心配すんなって。なまえみたいな嫁さんなら、手ぶらでも澤村家は大歓迎です」
「もー。こっちは真剣に悩んでるのに……ほんとにほんとに大丈夫かな?夕飯に焼き魚とか出されてさ、綺麗に食べられるかチェックされたりしないかな?」
「うちのお袋に限ってそれはないな」
「わかんないよー?大切な息子に相応しい女かどうか、玄関入った瞬間から試験開始だからね」
「お前、さては緊張してるだろ?」
大地が突然立ち止まる。私を見つめる黒眼が悪戯っぽく細くなる。当たり前じゃん!と正直に言うと、大きな声で笑われた。
「なまえは少し、ワイドショーの見過ぎだな」
そう言って大地は、2人分の荷物を詰めたキャリーバッグをがらがら引いて歩き出す。見慣れない仙台の青葉の街で、私はその背中を頼りに追いかける。
これから始まる彼との未来に、期待で胸が踊りっぱなしだ。
おしまい