• テキストサイズ

【ハイキュー!!】青息吐息の恋時雨【短編集】

第10章 ときめきのピストルを空へと向けて(澤村大地)


「大地は、高校の頃に戻りたい?」


烏野の公式練習が始まってすぐ、隣の彼に聞いてみた。え、と少しの間固まった大地は「どうだろうなぁ」と珍しく、頼りない表情をした。


「確かに高校時代は楽しかったし、あの頃以上の経験は、この先、一生味わえないような気もする。けど、戻ったら、お前とも離れちゃうし………」



バシッ!と激しい音が響いて、大地が口をつぐんだ。烏野の選手の1人が、強烈なスパイクを打った音だった。あぁ、きっとああいう人が、エースと呼ばれるんだろうな、とぼんやり眺めていたら、隣から、ぐっ、と喉が詰まる音がした。



「………大地?」

「ごめん、もし俺が泣いても、笑うなよ」

「笑わないよ。泣いちゃいそうなの?」

「お前が変なこと聞くからだろ」


色々思い出しちゃったんだよ、と、それでも芯のしっかりしている声を聞いて、私は返事をしないまま、大地の顔も見れないまま、何故か頭に浮かべていたのは、私が彼に告白した日のことだった。








ーーーーーー好きです。大地さん。


ほぼ半泣きになって、絞り出すように言った私を、大地は苦しそうな顔をしながら見つめていた。


『なまえ、それ、本気で言ってる?』

『本気です』

『憧れと好きの気持ちは、違うものだからね』

『わかってます』

『そっか』

そこまで言ってようやく、大地は安心したように顔を歪めて笑った。



よかった。俺も好きだったんだーーーーーー








ピッ、と笛の音が鳴る。

気が付いた時には、もう烏野の試合は始まっていた。ぼんやり見ている間にも、1点、2点とあっという間に試合が進む。


「今年のセッター。あいつ、上手いな」

独り言のように呟く大地の声。いつ見ても引き締まった彼の腕に触れながら、この人にも、学生服に袖を通していた時代があったんだよな、と考える。


/ 363ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp