第10章 ときめきのピストルを空へと向けて(澤村大地)
「こういう相手チームの練習見るとさ、」
周囲の応援の音に負けないように、私は大地の耳に口を近づけて声を届けた。「自分と同じポジションの人ばっか気になっちゃうよね」
「なまえは高校の頃、バスケ部だったんだっけ?」
「うん。大会の度に、緊張してた」
「緊張するのはみんな一緒だろ。張り切りすぎて、ウォームアップで力みすぎちゃったりしてな」
「あったあった。体力使うなって言われてるのに、不安だから全力出しちゃうんだよねぇ」
「他のチームが全部俺たちよりも強そうに見えてきて」
「強豪校なんてさ、歩き方から違うよね。コートの中に入った瞬間、会場の空気がピリッとしてさ」
「わかるわかる」
はは、と大地が口を開けて身体を揺らした。「だけどそれをさ、自分たちの声で振り払うんだ。円陣組んで、みんなで叫んで、相手に呑まれないように、って」
「へへ、バスケもバレーも同じだね」
大地の腕に頭をすり寄せて、辺りの喧騒に耳を傾けると、まるで高校時代に戻ったみたいに、自分の記憶がどんどん掘り起こされていく。
試合の前の日の夜、大丈夫大丈夫、と自分に言い聞かせなから眠ったベッド。
まだ薄暗い早朝の匂いと、洗面台の鏡に映る自分の顔。
いつも通りに友達とふざけるバスの中。
張り詰めた会場の空気。すれ違う他校の視線。
緊張、不安、プライドと高揚。そして円陣。
チームの仲間と肩を組んで、弱音を全部吐き出す代わりに大声を出す。喉が痛くなるくらい叫んでも間に合わなくて、足で地面を踏み切って。そうして顔を上げてみんなを見た時、今日は絶対勝てる、って思ったこと。
毎日部活のことで頭がいっぱいで、勉強なんてそっちのけでボールばっかり追いかけていた。家に帰れば当たり前のようにご飯とお風呂が待っていて、衣食住、人間関係なんにも心配することなく、ただひたすらにどうやったら上手くなるのか、ただそれだけに頭を悩ませていた高校時代。
3年間を過ごした部室は、今もあの頃のまま、あの場所に存在しているのかな。かつての自分とおんなじように、今は名前も知らない後輩たちが、談笑しながら毎日を駆け抜けているのだろうか。