第10章 ときめきのピストルを空へと向けて(澤村大地)
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「やっぱ慣れないなー。観客として、烏野のバレー見るのは」
2階の応援席の、一番前の手すりに両腕を乗せて、私の右隣に立った大地が呟く。「俺が高校生だった頃は、ここからOBの人たちが見てたんだ」と説明する彼の瞳は、試合前の合同練習をしている黒いユニフォーム達を見下ろしている。けど、どこか遠くを見ているみたいだ。
「懐かしい?」
「懐かしいっつーか、不思議な感じ。コートに立っていない自分がここにいるのが」
「試合始まったら大地、泣いちゃうかもね?」
「泣かないだろー。さすがに、」
その時期はもう過ぎたよ、と大地が短く笑った。その横顔がとってもとっても優しかったから、私は、そっか、としか返せなかった。
ここ仙台は、もっと言えば宮城は、東北は、私の懐かしむべき地元ではない。私と大地は遠く離れた別々の場所で生まれ育って、故郷を離れ、そして同じ大学で出会って恋に落ちたのだ。
社会人になった今でも、大地は時間を見つけてバレーをする。正直言って、息が止まるくらいに格好いい。
けれど、高校生の頃の、必死でボールを追い続けていた彼の姿を、私は知らない。
ピーッ、と直線を描くように、ホイッスルの音が鳴る。2つのチームのキャプテンが審判の元へ駆け寄って、向き合い、握手、コイントス。
最初のサーブ権を決めてるんだ、と大地が私に教えてくれる。大地もああいうことしてた?と尋ねると、してたよ、と彼は言う。
「相手チームのキャプテンってさ、どこも威圧感ハンパなかったんだよなぁ」
「もしかして、敵の主将にビビったりした?」
「む。そんなわけないぞ。俺だって負けずに睨んでた」
「えー、想像できないなぁ」
「ほんとだって」
馬鹿にすんなよ、と私の頭に彼の左手が乗せられる。手すりに顎をつけたまま、私は足元よりも下のコートで始まった公式練習を眺めていた。