第10章 ときめきのピストルを空へと向けて(澤村大地)
「大地!はやく!急いで走って!」
“仙台市体育館”の文字を仰いで、そのまま振り返って足踏みをする。柔らかく降り注ぐ日差しの向こうから「こらこら、待ちなさいって」と平然とした様子の大地がやってくる。
彼の右手には紙袋、もう片方の手は中型のキャリーバッグを引きずっていて、それでも私は意地悪く「もたもたしてたら試合始まっちゃうよー?」と急かしながら、のんびり屋さんの彼の元へと引き返す。
「大地が来たいって言ったのに!」
「だからって、何もバス停から走ることないだろう」
「急げ急げ!ほら、そっち持ってあげるから!」
大きな背中をぐいっと押して、荷物を受け取ろうと手を伸ばす。だけど紙袋は音もなく宙を移動して、私の右手は空気を掴む。腕を持ち上げることで無言の拒否を示した大地は、そのままスタスタと体育館へと歩いて行った。
残された私は、意地っ張りで優しい彼が振り返るまで、にやけ顔でわざとその場に立ったまま。
黙々と進んだ大地は、正面扉をくぐろうとして、そこでようやく私がついてきていないことに気が付いたのか、慌てた様子で引き返してくる。その困ったような呆れたような表情が、甘えたな私の心を満たしていくのだ。
自他ともに認める末っ子体質の私は、自分の気持ちが満足したことをしっかり確かめた後、彼に向かって左足から踏み出した。