第9章 休日のカバー・ガール(孤爪研磨)
「なまえってほんと、無駄ばっかり」
メイクが終わって、髪の毛をいじり始めた私と背中どうしをくっつけて、研磨が欠伸をしながら言い出した。「高校生のくせに化粧道具は無駄に揃えて、部屋の中はゴミだらけ」
「ゴミじゃないもん。雑貨だもん」
ぐっと背中で後ろを押すと、研磨も反作用で押し返してくる。黙って背中で押し合いながら、私は自分の部屋を見渡した。
本棚のきのこの置物、くすんだ色のエッフェル塔。
窓際に並んだ小さな空き瓶と、毛糸で出来た4匹の羊たち。右から名付けて、ジェシー、ルーシー、ティモシー、タイニー。
まぁでも確かに、この子たちが何の役に立っているのかと聞かれても、何の役にも立ちませんとしか言えません。だけどはっきりわかるのは、これらは私の世界の一部であるということだ。私の趣味で、私の可愛いの一部分を担っている、はず。
「人生に無駄は必要である」
とりあえず、ぱっと思いついた名言を言ってみる。「全部が全部意味のあることなのだよ。研磨くん」
「じゃあなまえが中学までバレーを続けてたのに、高校でやめちゃったのも意味があること?」
「そうきたか」
痛いところを突いてくるなぁ、と私は笑った。高校2年生になった今でも、研磨は私が帰宅部でいることに納得していないようだった。
「だってアルバイトしたかったから」
「バレーの方が楽しいのに」
「好きな洋服沢山買ってお洒落するのも、悪くはないよ」
「そんなの、社会人になったらいくらでもできる」
「いうて研磨だって、そんなにバレー好きじゃないでしょう。私にバレーをして欲しいのは、黒尾がそれを望むからでしょう?」
「それは………」
そうかもしれない、と研磨は言った。相変わらず素直な人だ。何度も繰り返したこのやり取りに、私はとっくの昔に飽きている。女の子は飽きっぽいのだ。スマホのケースを代えるみたいに、見た目も趣味も、どんどん移り変わっていけるから。