第9章 休日のカバー・ガール(孤爪研磨)
「マスカラにも、透明と黒があるのが面白いと思うんだ」
並んだメイク道具の中から、研磨はひょいと一本摘み上げる。残念でした、と私はそれを取り返す。
「これは茶色のマスカラです」
「また新しいの買ったの?」
「無駄遣いじゃないよ。気分によって使いわけるの!」
何か言いたげな研磨の口を片手で押さえて、私はえっへん、と顎を上げた。「ブラウン系は優しい目元になるんだよ。アイライナーも揃えちゃった」
「これ?」
研磨がまたテーブルに手を伸ばす。
「それはアイブロウ」
「アイブロウ?こっちじゃなくて?」
「そっちはパウダー。こっちはペンシル」
「全然見分けつかない」
無駄ばっかり、と研磨は笑う。「メイクなんて、1パターンで十分なのに」
「それを言うなら研磨だって無駄ばっかりでしょ」
私はツンと澄まして言い返す。「さっきまでやってた狩りのゲーム。剣の種類なんて一種類あれば十分なのに」
「全然違う」
む、と今度は研磨の番。「11種類全部に長所と短所があるんだよ。相手の敵によって使い分けるの」
「お化粧だっておんなじだもん」
2人で互いの顔を見つめ合う。向かいあった研磨は、おもちゃを買ってもらえない小さい子どもみたいな目をしてる。少しの間にらめっこをして、私達は同時に笑い出した。