第9章 休日のカバー・ガール(孤爪研磨)
ローテーブルにメイク道具を広げると、研磨はいつもゲームをやめて私の方へやってくる。
ショーウインドウの中のマカロンみたいに、からから並んだアイシャドー。
ブラシ、ペンシル、パウダーチーク。
まるでご馳走を待つ猫みたいにテーブルの向かい側から顔を出して、そわそわしながら眺める研磨に、私はつい四角い手鏡で光を反射させて遊びだす。日曜の窓から差し込む日光がちらちら動いて顔に当たると、研磨は眩しそうに目をつむる。やめて、と小さな声で文句を言う。
「ははは、ネコ避け」
「ネコじゃない」
逃げるように私の横に移動した研磨は、ぴたりと身体を寄せて、早く早くと催促をする。恋人のメイクしてるとこが見たいって、研磨ってとても変わってるね、と笑うと、それを言うならなまえだって、と言い返される。「俺にすっぴん見られても平気な顔してる。変なのはおあいこ」
「だって学校ではノーメイクでしょう」
「嘘。絶対なんか塗ってる」
「……下地とフェイスパウダーだけね」
「あとまゆげも」
クラスじゃそんな薄くない。そう言って私の前髪を掻き上げる。さすが、私の彼氏の観察眼。くすくすと笑いながら目を閉じた。そのまま、ん、とキスをねだっても、研磨は軽く鼻先どうしをくっつけるだけ。猫の親愛の挨拶である。