第8章 ひな鳥、チャイム、歪んだギター(縁下力)
「みょうじ、眠れないの?夜?」
「そうだよ!勉強も部活もやる気出ねーの。お前のせいで!」
「全部を全部俺のせいにするなよ」
「うるっせぇよ縁下のくせに生意気なんだよ」
「みょうじ、どんだけ俺のこと嫌いなの」
尋ねたけれど、なまえはぷいっとそっぽを向いてしまった。あぁ神様、とまた縁下は時計を仰いだ。
彼女の睡眠不足からくる苛々を、俺にぶつけないでほしいです。巻き添えなんてたまったもんじゃない。どうか彼女に良質な睡眠を。心地良い眠りを。お願いします。俺の心の平穏のために。
(だけどちょっと、可哀想かも)
もう一度バレないように、椅子に座るなまえをこっそり見つめる。
彼女が不眠症に悩んでいるなんて知らなかったな。
眠れない夜を過ごしたことなら自分にもある。寝ようと焦れば焦るほどに目が冴えて、手持ち無沙汰にスマホを見れば見るほど眠れなくなる。夜がどんどん深くなって、時間をただただ消費して、気がついたらカーテンの向こうが白んでて。
重くなった身体を引きずってなんとか学校に行ったとしても、授業なんてろくに理解もできなくて、隣の人が消しゴムを落とす音さえ頭の中にガンガン響いたこともある。
青空も太陽も、元気な西谷の元気な声すら腹立たしくて。
(でもだからって、隣の席の人間に八つ当たりしていいとは思えないけど)
まぁけど少し、寛容になってもいいかな、と思った直後、「ああぁもう!!」と彼女が猛然と立ち上がった。「縁下いい加減にしろよお前!!!」