第8章 ひな鳥、チャイム、歪んだギター(縁下力)
「えっ、えっ、何?俺なんもしてないじゃん!?」
「うるせぇんだよいちいち!!勝手に視界ん中ちらつくんじゃねーよ!」
「そんな横暴な!」
もうやめてくれ、と言い返したら、あたしだってもうやだよ!と彼女はまたガタンと椅子に座って頭を抱えた。
「何もかも手につかないの!お前のことばっか考えちゃうの!!」
「へ?」
ちょっと待って。それってどういう……?
聞き返そうと口を開きかけたところに、チャイムが鳴って先生が教室へと入ってくる。あぁ、イライラする、となまえはへなへなと机に突っ伏した。
「眠れないんだよ。あんたのことが気になっちゃって」
もういっそのこと、くたばってくれよ、縁下。
泣き出しそうななまえの声を聞いた途端、身体中の熱が顔に集まってきた。
大変だ。更に面倒なことになったのかもしれない。そう思っても脳は情報の処理を放棄して、彼女は寝不足の頭をもたげて、自分は慌てて真っ赤な顔を教科書で隠すように俯いた。冗談じゃないよ、冗談じゃない。
周りのクラスメイトとおんなじように、これから三角方程式を理解しなくちゃいけないのに。別の問題に頭を使う羽目になってしまった。どうしよう、どうしたらいい?助けて神様。
教科書をめくっても解決方法は載っていなくて、縁下はそれから60分間、ずっと頭を抱えたままで、ひたすらθとπの文字を目で追っていくだけの時間を過ごしていった。
おしまい