第8章 ひな鳥、チャイム、歪んだギター(縁下力)
(面倒な奴の隣になっちゃったなぁ……)
早く休み時間終わってくれ、と縁下は時計を仰いだ。次の授業まではあと5分。トイレへ避難するのも微妙な時間。
なまえからの爆撃を凌ぐには、いまはただ、息を潜めてじっとするしかなさそうだ。そう決断して、縁下はちらりと横目で彼女を見た。
(黙っていれば結構かわい……いや、びじ……、違う、イケメン?なんだけど)
自分のどこが気に喰わないのかわからない。何が彼女の怒りを買うのかわからない。だから静かにしているしかない。
まぁ仮に突っかかってきたとしても、彼女からは大して恐怖は感じない。ただその代わり、とても困ってしまうのだ。
自分の外見上、相手に舐められて無茶な言いがかりをつけられることは今までにも何度かあった。そんなときは冷静に、冷静に相手を論破して、あるいはバレー部の威圧感ある人間を呼び出して、あるいは自分も直接腕を降り下ろすなんてこともなくもない、けど、
(今回は女の子だからなぁ……………)
どうしたもんかと考えていたら、なまえがジロリと視線を向けてきた。
「何見てんだよ縁下」
「いや、別に」
「用がないならこっち見んなよ。腹パンして吐かせたゲロもう1度口ん中に流し込むぞ」
「みょうじ……女子がそういうこと言うなって」
いや、男子でもなかなか言わないけどさ。
「俺のこと、そんなムカつく?」
「ムカつく」
「なんで?」
「イライラするから」
「………?」
「あー!もう!!」
バン!となまえが机を叩いた。目に見えない重たい物体を投げ捨てるみたいに、両手を上からガッと降り下ろして彼女は叫んだ。
「寝 不 足なんだよこっちは!もうすべてのことがムカつくの!あんたの全部がムカつくの!わかる!?」
「寝不足?」
予想外の切り返しに、縁下は圧倒されて瞬きをした。