第8章 ひな鳥、チャイム、歪んだギター(縁下力)
「く た ば れ 縁下」
唸るような低い声。
聞いた瞬間、縁下の背筋はピキッと固まる。ガタガタガタ、と振動音が隣の席から聞こえてきた。ついでに、縁下マジウゼぇ、と呟く声も。
(また始まった……)
黒板の方を向いたまま、おそるおそる目だけを横に動かして、声の主の様子を伺ってみる。
「あ゛ー!マジでイライラする」
盛大な舌打ちと共に貧乏揺すりをしているのは、隣の席のみょうじなまえ。頭を抱える体勢で机に両肘をついたまま、かかとを激しく床に打ち付けている。
こちらへ視線を向けることなく、自分に暴言を吐く彼女。野蛮、粗暴、いろんな意味で荒々しい女子。
どういうわけだか知らないが、隣の席になってから、今みたいな休み時間に時々絡まれるのだ。
正直言って、どうしたらいいかわからない。
苛立ちを見せるなまえに対して困惑したまま、縁下はまた視線を黒板の方へと戻した。すかさず足が伸びてきて、椅子を真横から蹴り飛ばされる。
「痛っ……」
「おい縁下」
「な、なに?」
男子たるもの、さすがに椅子ごと蹴り倒されるわけには、と両足で踏ん張りながらなまえの呼びかけに返事をすると、ぐい、と顔が近づいた。
「消えろ。目障り」
面と向かって、目と鼻の先でそう吐き捨てるなまえを見て、まるでガンを飛ばす田中龍之介だ、と縁下は考えた。もしくは寝起きの月島蛍。
(なんて理不尽なイジメなんだろ。俺、今日は一言もなまえと会話をしていないのに)
「何、シカト?」
「いや……みょうじ、今日はいつもより機嫌悪そうだn「あ゛ぁ?」……なんでもないです」
おでこ同士がくっつきそうになるくらいの至近距離で睨まれて、こめかみに汗が流れる。明後日の方向に顔を背けて、すみませんでした、と小声で言うと、なまえは舌打ちをして椅子にガタンと座り直した。