第1章 まるでオーストラリアのサンタみたいに(赤葦京治)
「木兎さん、来れないんですか?」
丁寧にお礼を言って去っていく老婦人を見送った後、赤葦くんが私の元へ戻ってきた。そうみたい、とスマホをコートのポケットに入れながら答えると、なんだか困ったような顔をされた。
「ごめんね、木兎の馬鹿が振り回して」
「いえ、こちらこそすみません。木兎さんが……」
言いかけて彼は沈黙した。そう、私たち2人は被害者だ。何も悪くない。責任を感じる必要なんてどこにもないのだ。
「どうしようね。今日、これから」
尋ねると、赤葦くんは視線だけを斜め下に向けて、んんん、と小さく唸った。彼の気持ちを当ててみせよう。
『この寒い日にわざわざ木兎サンのために来てくれたのに、このまま解散するのは申し訳ない。かと言って昨日会ったばかりの男女で街を巡ろうと提案するのもハードルが高い。自分は一向に構わないが相手は嫌かもわからない』
なぜそこまで詳細に分かるのかって私も同じことを考えているからだ。きっと似たもの同士、思考回路も同じなんだろう。
とうとう目を閉じて腕組みしながら迷い始めてしまった赤葦くんに「せっかくだから、どこか行こうよ」と笑いかけた。えぇ、そうですよ。年下イケメンとデートがしたいんです。こんな絶好のチャンス逃すわけない。ありがとうね木兎光太郎くん。
「なまえさん、行きたい場所とかありますか?」
「特には……いつも木兎がその場のノリで決めるからさ。今日は完全ノープランです」
「あぁ、わかります。俺も何も考えてきてません」
「なんか、ごめんね」
「謝らないでください。大丈夫です。予定を崩されるのには慣れてますから」
「慣れてますからね。お互い」
ははは、と笑って2人で歩き出した。何を話したもんかと迷っていたけれど、話題にできるような共通点なんて悔しいけれど1つしかない。
木兎って、アイツ面倒だけどさ、慣れたら扱いやすいよね。そう言うと、あぁ、わかります。と彼が頷く。放置と褒めるバランス大事ですよね、と。わかるわかる、と私も笑う。あとね、アメをあげると少しの間だけ静かになるんだよ。そうなんですか?知らなかったです、今度試してみます。
「おすすめは大きなサイズのアメだよ。小さいとすぐ齧っちゃうから」
こんなの、とポケットに入っていたそれを取り出してみせると、え、と赤葦くんが驚いた。