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【ハイキュー!!】青息吐息の恋時雨【短編集】

第7章 幸せの名前(茂庭要)


「あのね、なまえ、」

「なぁに?」

「………今日さ、バレー部見に行ったんだ」

「あぁ、だから機嫌いいんだ」

なるほどな、と私は1人で納得した。「どうだった?二口の奴、上手くやってた?」

「うん。頑張ってたよ」

「ほんとに?」

「うん。夏の時よりも、ずっとずっと強くなってた」


すごいよ、俺の後輩は。

要は決まってそう言うけれど、他の3年から寄せられる情報を聞く限りでは、私の2コ下の新キャプテンが順調なスタートを切っているとは思えなかった。要は人の欠点を探すことが苦手な人間なのである。


彼は誰に対しても、俺よりすごいと褒め言葉を言う。そのくせバレー部の主将を務めて、就職先も推薦ですんなり決めた自身のことは、一度も鼻にかけたことがない。彼が誇らしげに自慢をするのは、いつも他人のことばっかりなのだ。

そんな性格だからこそ、私は彼に惹かれていった。お母さんみたいだなんてからかわれたりするけれど、実を言うと、それは彼の、ほんの一部の顔にすぎない。

不作と言われた年の代、チームの心が折れそうな時、周りを鼓舞する姿が格好いいのだ。彼だけは折れない。そのことを私は知っている。きっと、彼の心はマカロニみたいにもちもち柔らかいから折れないのだな、なんてベタ惚れな彼女の私は分析している。

つまり茂庭要という男の子は、いつもは呆れてしまうほど他人に優しい。優しいけれど、バレーの時と、ベッドの中だけくそ格好いい。それを知っている女は世界で自分だけという事実を、私は最高に誇らしいと思っていたりするのだ。あぁ、なんか自分で言って恥ずかしくなってきちゃったな。







耐熱容器に、グラタンの具材とソースが流し込まれる。


「あとはオーブンで焼くだけだから、座って待ってて」と狭いワンルームの中央に置かれたテーブルを指さしながら、熱くなった頬をぱたぱた扇いだ。はーい、と要が返事をする。




私が仕上げのチーズとパン粉をふりかけている間、彼はさっとテーブルの上を片付ける。クッションの位置を直して、テーブルの角度を直して、キッチンへと戻ってくる。


スプーンを2本、コップを2つ。それから、冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り出すと、抱えた腕で扉を閉めて、去り際に私の頬にキスまでしていく。
 

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