第6章 視点を変えて見てみよう【3.拡大】(青城3年)
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「人間の目に入った光っていうのはさぁ、」
スマホのカメラアプリを起動して、なまえが無駄に偉そうに口を開いた。「水晶体で屈折して網膜上に像を結ぶんだけど、このときできる像は上下逆さまなんだよね」
そう言ってプロジェクターと繋がったスマホのカメラレンズを俺たちの方に向けると、縦にくるんとひっくり返した。「私達が生まれた時から見ている世界は、実は上下左右が逆さまなんです」という説明と共に、目の前の大画面に、逆さまになった俺たち4人が映し出される。
「???」
混乱しすぎて威圧感半端ない顔をしている岩泉に「脳が情報を正しく処理してるって話だよ」と及川が囁く。「その通り!」と笑うなまえに、また俺は目眩を覚えた。
「にしてもあれだね、こうやっておっきな画面で自分を見ると、なんだか役者になった気分だね!」
正しい向きに直ったスマホに向かって、及川がおどけてピースを向けた。「あぁ、なるほど」となまえが及川にカメラのレンズを近づける。
当然その画面に映ったものは目の前の壁にも映し出されるわけで、「いぇい!及川さんです☆」とウインクをする画面一杯の主将の顔に「気分が悪くなってきた」と岩泉も真顔に戻った。
「これでさっきの続きしようよ!『はじけろ!高校生探偵・野球部連続殺人事件』撮影ごっこ!」
「タイトル長いぞ及川くん!」
鋭い声で突っ込んだなまえが、「それよりも、もっと楽しいアソビをしよう」とニヤリと笑って息を大きく吸い込んだ。そして高らかに宣言をした。
「さぁやってまいりました『第1回なりきり中二病選手権!』いえーい!!!」
急にハイテンションになったなまえに、俺は一瞬でこのあと起こる展開を把握した。
「これは中二病患者になりきってその発言のイタさを競う大会です!本日実況を務めます、わたくしみょうじなまえ」
「ーーーと、解説、松川一静でお送りします」
ギリギリのタイミングでなまえの横に滑りこんだら「あっ、まっつんズルい!」「逃げやがったな!」とワンテンポ遅れて理解した奴らの野次が飛んできた。
聞こえないふりをして「みょうじさん、今日はよろしくおねがいします」と軽く会釈をすると「こちらこそ、よろしくお願い致します」と澄ました顔で返された。