第6章 視点を変えて見てみよう【3.拡大】(青城3年)
「わ!すごっ!映画みたい!」
感激の声を上げたのはもちろん及川。暗い部屋の壁に光る画面は縦長で、隣に立った岩泉の身長と同じくらいの大きさだった。
なんというか、真っ暗な部屋で大きなテレビを見ているみたいな感じである。ただのスマホのホーム画面のはずなのに、目の前の壁に大きく映し出されるだけで、なんだか非日常を感じてしまった。
「ただのスマホの画面なのに」
「そうだよ。ただ繋いで映してるだけ」
ほら、となまえが手元のスマホを操作してLINEを開いた。3年だけで作ったグループトークが、大画面へと映し出される。
「はは、今朝のこのクソ川のやつ、みんな既読スルーしてやんの」
岩泉が指をさして笑った。『みて!今日の寝癖、なんか格好良くない!?無造作ヘアー!?』と画像と一緒に送信された及川の発言が一番下に表示されていた。
「早速だけど、なに見る?アニメ?PV?それともお笑い動画とか?」
LINEを閉じて尋ねるなまえに「おい、待て」と花巻が真剣な顔で口を開いた。その場にいた全員が視線を向ける。
「なに?マッキー」
「俺、すげーことに気付いたんだけど」
「なんだよ」
「いや、もしもの話なんだけど……」
「早く言え」
「あのさ、お前ら考えてみ?」
バレーの試合でも見ないくらい真面目な顔で、花巻は1語1語を噛みしめるように、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「もし、いま、この巨大画面で、アダルト動画を再生したらさ…」
言い終わる前に「マッキーって天才!?」と及川が食い付いた。「やばくないそれ!?やばくない!?」
「超スペクタクル映像が展開されるな」
「おいなまえ、今から俺の言う言葉をその検索バーに打ち込んでくれ。いいか?”FC2むりょ…」
「ん゛っん゛ん!!」
盛大ななまえの咳払いに、俺たち男子4人は一斉に口を閉じて正座をした。いや、ほんの冗談のつもりだったんだけどな。ほんとに。
「だから男って嫌なのよね」
俺たちの前に仁王立ちになって、腕を組んだなまえが嫌悪感むき出しの表情をした。「アダルト動画っていうのはね!小さな画面でこっそり見るから興奮するもんなのよ!?」
「終わってるわこいつ」
目眩がしてきた俺の肩に、ごめんな、と岩泉が右手を乗せた。「俺達のマネージャー、ちょっと頭がおかしいんだよ」