第6章 視点を変えて見てみよう【3.拡大】(青城3年)
「なぁに、それ?」
及川が尋ねる。
「プロジェクターだよ。小型のやつ」
「ぷろ、じぇくたー?」
「そ。映画とか、ゲームとか大画面で観たくってさ、買ったの」
なまえは紙袋から、小さな箱を取り出してみせた。「文化祭のクラス展示で使ったんだけど、持って帰るの忘れてたんだ」
「あぁ、言われてみれば、なんか映像流してたね。あれ、なまえちゃんのクラスだっけ」
「そうそう。映画館みたいだったでしょ?」
「ここでも使える?」
映画館、という単語に反応した及川が、ぱっと顔を輝かせた。「ほら、さっきみたいにカーテン閉めて電気消してさ!この部室でも観れるかな!?」
「う、うん。できると思うよ」
「じゃあ映画鑑賞しよっ!今!」
「今ぁ?」
片眉だけ器用に釣り上げたなまえは、今は無理。と及川を突き放した。「DVDも再生機器もないじゃん。スマホで動画再生するくらいしかできないよ」
「それでいいから!みんなでyoutube観よ!」
あーん、お願いー!と両腕をぶんぶん振り回す及川に、その場にいた全員で呆れ返った。駄々をこねるこいつは面倒くさい。一度言い出したらなかなか頑固だからな。俺達の主将は。
しょうがないなぁ、と手のひらサイズの立方体の機械を取り出して、いそいそと準備を始めたなまえに向かって「スマホとプロジェクターって繋げられんのな」と俺は感心して声を掛けた。「パソコンとかだけだと思ってたわ」
「変換器があれば出来るよ!」
白いケーブルを1本つまんで、なまえは某ネコ型ロボットの声真似をした。「らいとにんぐ、でじたるえーぶいあだぷたー!」
「ダメだわ何言ってるか全然わかんね」
首を傾げたら「ごめんな俺達のマネージャーが」と岩泉が地べたに座るなまえの頭をぽん、と撫でた。「ちょっと頭おかしいからなこいつ。勘弁してやってくれ」
そう言って岩泉は笑った。熱心に小さな三脚を組み立てているなまえを、俺達4人は積み木遊びをする子供を見守る親の気持ちで眺めていた。
「できた!」
電気消して―!というなまえの指示に従って、入り口に一番近かった俺はスイッチに手を伸ばす。パチン、と音がして、電気が消える。
それから、何も貼られていない白い壁に、なまえのスマホのホーム画面が拡大されて投影された。