第45章 類を以て集まるも懐を開く義理はない(及川徹)
「良かったでしょ?仙台出身なんだよ、このバンド」
得意になって返事を返すと、マッキーは素直に頷いてジャケットを眺め直した。
「及川にしては見る目があると感心した。これが一番新しいシングルだっけ?」
「そうそう。先週リリース」
上から目線のコメントは気にしないことにして「ラジオも最近始まってさ。土曜夜の23時からなんだけど、」と宣伝しておく。自分の好みを他人に押しつける趣味はないけれど、感想を共有できる仲間が増えるのは歓迎すべきことだとは思う。「曲もいいけど、トークも面白いんだよねぇ、」と言葉を続け、畳みかけるように語った。
「「なんと言っても、ラジオだとボーカルのテンションが高い!」」
声がハモった。
自分より高い声が。横から。
首を動かすと、隣の席のなまえが俺を見ていた。向こうは何故かまっつんと会話していたようで、彼女の右手の中で、俺が持っているのと同じポップなカラーのジャケットが光を反射させていた。状況を理解するより前に、自分のこめかみがひくりと動く。
⇔
好きなことについて話す時、つい夢中になって声を大にしてしまうのは私の悪い癖だ。
松川にオススメのアーティストの良さを語っていたら、いつの間にかボリュームがぐーんと上がってしまっていたみたい。発した私と私以外の声が、同じ言葉を綺麗に重ねるなんてビックリが起こらなかったら、休み時間が終わるまで口が回り続けていたかも。反省。
ところで息ぴったりにハモってきた犯人は及川だった。どうやら同じ話題で花巻と盛り上がっていたらしく、事情を飲み込んだ私の喉は、一緒に冷たい空気が滑り降りていく感覚を味わっていた。
同じCDを手に固まる私と及川。あちゃー、の表情を浮かべる花巻と松川。私たち4人間で、気まずいアイコンタクトが交わされた。
「う、裏切りじゃない?」
最初に動いたのは及川だった。私にではなく、松川に指を向けていた。
「裏切りって、何の話だ?」松川は平然とすることにしたらしい。「なまえにCD借りただけだけど」
「なんでよりによってそっちにいくの!?」
「俺なんか悪いことしてる?あ、及川もしかしてなまえのこと狙ってた?」
うわぁ、と花巻が低く零す。私だってうわぁ、と思った。ここまで白々しい煽りができる図太さってすごいと思うの。