第45章 類を以て集まるも懐を開く義理はない(及川徹)
前置きしておく。これは断じて嫉妬ではない。
歴史上のどんな聖人君子にも、相性の悪いタイプはいただろう。嫌いになるほどではないけれど、馬が合わない、できれば傍にいたくないような。同じ空気を吸いたくない。考えるだけで舌打ちが出る。正面きって出会っちゃったら、とりあえずバーカバーカ!と指を向けておかねばならない相手は誰にでもいる。誰にでもいる。恥ずべきことはないはずだ。対して俺は聖人でも何でもないから、笑顔で大嫌いと公言できる奴らリストは日々更新されていたりする。下記、敬称略。牛島若利、影山飛雄、そんでもってみょうじなまえ。バレーで戦える相手ならいずれ叩きつぶす予定であるけど、相手が女の子の場合は分が悪くなる上に質が悪い。みょうじなまえーー彼女に会ったことが無い人に、彼女がどんな人間かわかりやすく的確に伝える方法が一つある。未来から来た猫型ロボット、ドラえもんの世界に出てくる、出木杉くんを思い浮かべてみてほしい。成績優秀、スポーツ万能、容姿端麗おまけに良い奴。響きの良い単語がぴったりな出木杉くんを女の子に変換したような存在こそが、みょうじなまえだ。この手の人間の素晴らしさときたら筆舌尽くしがたく歯軋りせずにはいられない。優等生ってだけじゃなく、人望が厚く砕けた話題にも無邪気に混じるところがただの気取り屋とは違うってわけ。でものび太やジャイアンが好きだと言う人はいても、出木杉くんが一番好きというファンはなかなか耳にしたことがないよね。もう分かったでしょ、そういうことでしょ。スタイリッシュ万能少女は皆からちやほやされて、見ている俺は面白くないってそれだけ。彼女は手先が器用で一つ一つの所作も綺麗だ。困っている人がいれば手を差し伸べる。賞賛されたら謙虚な姿勢で感謝を返す。全うな人間の代表格みたいな誠実さと恵まれた部分をひけらかさない慎ましさ、見ているだけで反吐が出る。反吐って何か知らないけどさ。
「及川、借りてたCD返すわ」
汗ばむような空気が流れるある休み時間、マッキーが俺のところにやってきた。ポップなカラーのジャケットが表になったケースを返却しに来たマッキーは、こちらから感想を求めたわけではないのに「良い曲だった」とだけ述べた。
にやりとしてしまう。辛口評価の同級生からその言葉を引き出せただけで満足だった。