第44章 狭くて、 丸くて、 ただひとつ(灰羽リエーフ)
椅子に座る女性は、 そこでようやくリエーフの方を向き、 顎を上げた。
外跳ねのショートヘアが風に毛先を揺らしている。 落ち着いた色味だったが、 光の当たる角度によって濃淡が変わり、 不思議な透明感と柔らかさを纏っていた。 まるで、
毛並みの良い純血の猫、 みたいな髪の毛。
映像がぱっとリエーフの頭に浮かんだ。 昨日テレビで観た、 上品そうな、 そう、 確か、 ロシアンブルーと呼ばれる品種。 一緒に食卓についていた姉が妙に食いついて検索し始めたのでその横文字は記憶に新しかった。
「あなた、 随分背が高いみたいね?」
のんびりした様子の彼女は、 手に持っていた雑誌をくるんと正しい向きにひっくり返した。 「これでいいかしら」
「うん、 完璧」
「ご親切に、 どうもありがとう」
青空に舞い上がる風船のように、 軽やかな口調だった。 「少し恥ずかしいな。 この世界には、 いつまで経っても慣れなくて」
リエーフは顎を引いて、 それから角度を変えて首を傾げた。 不思議な言い方をする人だ、 と思った。 この世界、 なんて。 小学校の音楽の授業で、 世界は1つと教わったはずだけど。 世界はせまい、 世界はおなじ、 世界はまるい、 ただひとつ。