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【ハイキュー!!】青息吐息の恋時雨【短編集】

第44章 狭くて、 丸くて、 ただひとつ(灰羽リエーフ)



細身のジーンズを履いたその女性の脇には、 手に持っている雑誌の表紙とお揃いで空色の、 大きなキャリーケースが置かれていた。

東京に来た観光客だろうか、

一瞥して彼女に視線を戻す。


透明感の強い、 艶のある髪にサングラスとピアス。 服装はTシャツのラフな格好。 唇の両端は柔らかく上向き。

物珍しい見た目ではない。 でも雰囲気が謎めいているのは何故だろう。 もしかしたら外国人なのかもしれない。 少しばかりの期待を持った。 あるいは、 自分と同じハーフとか。


両手がむずむずと動いてしまう。
半袖ジャージの上から掛けた、 部活用鞄の肩紐をぎゅっと握る。

この人と、 少しだけ喋りたい、 と思った。

ネズミを見つけた野良猫と同じで、 一度興味を持ったら手を出す以外考えられない。 理性で自分を抑えることはリエーフにとってまだ難しいことだった。 運の良いことに、 今はうるさい先輩もいない。


「あの、 隣に座ってもいい?……すか、 ここ」


少しだけお喋りしたい。 少しだけ。

「いいわよ。 どうぞ」

「あざッす!」

いそいそと腰掛けながら、 彼女の横顔をじっと観察する。

細い首筋には皺1つなく、 パッと見で歳が若そうに感じた。 華奢な脚を組み直す仕草は大人っぽいというよりも、 海外のセレブ少女が気取っているような印象に近い。 忙しない世間のリズムから1拍ずれているような感じ。


もしかしたら、 この人は実は有名なモデルか女優で、 お忍びにこの辺りを散策しているのかも。

妄想が巡りだす。 澄ましたような態度の相手が迷惑がっている様子を示してこないのを良いことに、 上から下までジロジロと眺めてしまう。

自分の姉と同じくらいの年齢、 と感じるけれど、 正確には掴めない。


「あ、 分かった!」
閃いて、 大きな声を出す。 「お姉さん、 探偵でしょ?」


思いつきで話すとバカがばれるから、 お前は口を閉じていた方がいい、 と言われることは何度かあった。 でも、 過去に受けた忠告を思い出す前にいつも口は動いてしまう。




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