第5章 視点を変えて見てみよう【2.上昇】(梟谷3年)
小学校ぶりだわー、と木葉が右手側に回りこんで腕を組み合わせる。なまえと小見がぽかんと見ているうちに完成した騎馬は、さあ!と床に片膝立ちになって彼女を急かした。
「お乗りください、お嬢さん」
あまり格好のつかない見た目で、格好つけて言う猿杙に、「えっ乗っていいの?」となまえが顔を輝かせる。「どうぞどうぞ、憎き小見を、上から目線で馬鹿にしてやってくださいな」と木葉がにやにやしながら鷲尾と組んだ右手のあぶみを彼女の方へ差し出した。
「おみあしは、こちらにどうぞ」
「おみあしってなぁに?」
「足の尊敬語だよ馬鹿」
「そうなんだ。じゃあ、失礼しますね」
よいしょ、となまえが高身長男子の騎馬に跨る。小さな掛け声と共に3人が立ち上がると、バランスを保ちながら彼女の身体が持ち上がった。
見ていた世界の角度が変わる。地面がぐっと遠くになって、見えた小見の頭のつむじに「わぁ!」となまえが口を開けて喜んだ。
「すごいすごい!小見やんが小さくなったよ!」
「いや、お前がでかくなったんだろ」
「小見やんかわいー」
右手を伸ばして、オレンジ色の頭を撫でる。やめろー、と小見は口では嫌がるけれど、それでも機嫌が直った様子のなまえにまんざらでもない顔をしている。
そんな2人の姿に、自然と頬が緩んでしまう木葉・猿杙・鷲尾の3人。
「乗り心地はいかがですか?お嬢さん」
後ろから尋ねる木葉の頭にも「最高です」と手が乗せられる。白い指が、細い金髪をさらさら揺らした。
「すごいや。みんな私より小さいね」
くすぐったそうに笑ってから、なまえはぐるりと周りを見渡した。「いつもより部室が狭くなったみたい!」
片手を上へと伸ばすと、部室の天井に手が届く。指先に伝わるざらざらとした感触に、非日常を感じて心が踊った。
「身長が違うだけで、こんなに見え方が違っちゃうんだね。私、知らなかったよ」
素直に変化を楽しむ彼女に、あぁ、この子がマネージャーでよかったなぁ、としみじみ思った4人でしたとさ。
まとめ・いつもより高い目線で世界を見たら、見慣れた景色もまるで違って見えるそうです。
おしまい