第5章 視点を変えて見てみよう【2.上昇】(梟谷3年)
「私だって好きで小さくなってるんじゃないもん!」
「わかってる。わかってるって!」
4人が揃って見下ろしてくることがなまえにとっては気に食わない。「頭が高い!」と叫んだら、今度は殿か!とまた爆笑。
「笑わないでよ!もう、笑わないでってば!!全員速やかに私より頭の位置を低くしなさい!」
「お断りしまぁす!」
笑った小見がぐりぐりと彼女の頭を撫でくりまわす。「地面に埋まる勢いじゃないと無理です隊長!」
「そこまで私低くないもん!!!」
ムキになって叫んだなまえの両目に、涙がどんどん溜まり始める。怒るとすぐ泣いてしまうのは彼女の小さい頃からの体質だった。慌てて両目を擦る彼女に、小見がぎょっとしたように固まった。
「ま、待てなまえ、泣くな」
「う……泣いてない、し」
ぐす、と鼻をすすってなまえが否定をすると「あー、小見やんが泣かした」と猿杙が他人事のように呟いた。続いて木葉も「サイテーだなお前」と便乗する。
「お前達だって同罪だろ!?」
「いや、小見が悪いな」
たった1人に責任を押し付けて、なまえの周りに木葉、猿杙、ついでに鷲尾がざっと固まる。4対1になった構図に、なんだか偉くなった気分かも、と彼女は涙を拭きながらやけに冷静に考えていた。
「おいなまえ、こんな最低な男なんか上から見下してやれ」
なまえの両肩に手を置いて、木葉が言った。「どうすんの?」と彼女が尋ねる。聞かれた木葉はしばし考えたのち、鷲尾に向かって「お前、なまえのこと肩車しろ」と命令を出した。
「俺がか?」
「お前ならできるだろ?肩車」
「危険だからダメだ」
「相変わらず真面目な奴だなお前は。おい、猿杙」
「俺もパス。木葉がやってあげなよ」
「俺だって無理だし。腰痛めたくねぇもん」
「ねぇ、私そんな重いかなぁ?」
更に傷ついた様子のなまえを見て「はい、俺は思いつきました」と猿杙が右手を上げた。「鷲尾、そのまま後ろ向いてて」
「?」
にこにこしながら猿杙が、鷲尾の背後に回り込む。後ろから左手同士で手を繋ぎ、空いた方の手を鷲尾の右の肩へと乗せる。そうして、「はい、反対側も」と木葉を促す。その体勢を見て、あぁ、と木葉が呟いた。
「騎馬戦?」
「そう、騎馬戦!」
「うわ、懐かしー」