第41章 はるかぜとともに(澤村大地)
今日の晩ご飯、どうしようかな。
当たり前だけど、自分で用意しないとご飯はないのか。お風呂もわかない。
横向きに丸まって、足先を見つめた。
これからずっと私服かぁ。
つい数日前の、高校の離任式を思い出す。あれがクラスの最後の日だった。午前中で式が終わって、お昼になってもなかなか人は帰らなくって。誰かが、これで制服も最後だね、とぽつりと言って。じゃあね、また、と手を上げて、まるで明日も会えるみたいにバイバイをした。
みんな、今ごろ何してるかな。
考えたら、急に寂しくなった。ここは勝手の知らない土地、初めての街。私は生活していかなきゃいけない。
友達ゼロ、親戚ゼロ。
ひとり。
泣くほど悲しいわけではないのに、ぽっかりと暗い穴に落ちていくみたい。片付かない部屋が余計に寂しくさせていた。
帰りたい、と思ったけれど、ここが私の家なのだという事実がのし掛かる。
時間と共に、部屋の中はどんどん翳っていった。まだカーテンを取り付けていないことに気が付く。夜までになんとかしないと、電気をつけたら外から丸見え。だってここは1階だもの。でも、あんな高いレールにどうやってカーテンを取り付けたらいいんだろう。踏み台?そんなものないよ。買ってこないといけないのかな。あぁ面倒臭い。ゼロから部屋を作ることが、こんなに大変なことだったなんて。
「晩ご飯はコンビニでいいかな……」
便利だし。すぐ食べられるし、近いし。今日だけ、いいじゃないか初日くらい。
サンダルをつっかけて、玄関のドアをガチャリと鳴らして、外に出た。
ほぼ同時に、同じ音がもうひとつ重なった。
「あ!」と言ってしまった。あの人が立っていた。猫を眺めていた人、私に、この部屋に住む決断をさせてくれた人。
ちょうど、今帰ってきました、という様子で、私から見て1つ横のドアに手をかけている。
そうだ、お隣さんになったんだ。