第41章 はるかぜとともに(澤村大地)
大学進学を機に実家から出てひとり暮らしを始めるなんて、すごくすごく難易度の高いことのように思えたけれど、決まった通りに動けば案外簡単にスタートを切れた。
一週間も経たないうちに、私は同じ場所で、天井まで届きそうな段ボールだらけに囲まれて、私の部屋になった私の部屋で、フローリングに大の字になって寝そべっていた。
入学式まで、あと数日。
新しい街、新しい学校、新しい生活、お茶碗も、家具も、コンビニまで行くサンダルも。全部が全部新しい。
お金は無限にあるわけではないから、全て私好みのかわいい物を、というわけにはいかなかった。けれど、住めば都、雪隠虫もなんとやら。自分で選んだものはやっぱり愛着がわく。結局かわいく思えてくる。
電気、水道は開通しても、ガスはまだ通っていなかった。午後から業者さんが開栓に来てくれる予定になってて、それまで火もお湯も使えない。寝返りを打って、買っておいたスーパーの袋を引っ張り寄せる。レタスとチーズが挟まったサンドイッチを取り出して寝たままかじった。
お母さんに見つかったら怒られるけど、今じゃ電車で3時間の距離。誰も知らないところでお行儀悪いのはハッピー。
なんでも自分の好きなようにしていいって、自由って、幸せだなと噛み締める。
これから好きなことだけ勉強をして、お金を貯めて、好きなものを買って生きていくんだ。バイトは何にしよう、カフェ?カラオケ?パン屋さん?塾講師、とか。
むふふ、と笑みが零れる。 我が世の春を満喫中、といった気分だ。
けれど残念なことに、段ボールはなかなか片付かなかった。すぐ終わると思っていたのに、一箱開けては漫画を読み、一箱開けてはスマホをいじった。ガスの立会いが済んでも終わらなくて、トイレに行きたいと思ってから、トイレットペーパーがどの箱の中にあるのかわからなくなってしまって、結局急いでコンビニに走る羽目になった。
日が暮れるころにはエネルギーがすっかり尽きてしまって、また私はフローリングの上に倒れていた。