第5章 視点を変えて見てみよう【2.上昇】(梟谷3年)
「そんなカリカリすんなって」
10cm以上も低い小見を見下ろして、木葉は細い目を更に細めて余裕あり気に両手を広げた。「なまえも小見もチビ。はい、これで円満解決」
「してねーよ!」
「ちょっとちょっと木葉くーん」
犬みたいに威嚇する小見に便乗し、なまえも下から見上げて抗議を唱える。「小見やんが小さいのは認めるけどさぁ、女子の低身長はむしろ愛でるべきなんじゃないですかー?アドバンテージなんじゃないですかー?」
「あー聞こえない。態度だけデカいチビがなんか言ってるけどマジで全然聞こえない」
「木葉くんのそういう所がぁー、カノジョができない理由なんだと思いまーす」
人差し指を向ける彼女を「あぁ、そうさ」と木葉秋紀がせせら笑う。
「俺は女にモテない男です」
「ーーーーって、いう設定なんだよね?」
にこにこ笑った猿杙大和が、木葉の台詞の後に被せてきたので、えっ、となまえが驚いた。
「設定って……それどういうこと?」
尋ねると、猿杙は困ったように肩をすくめて、隣の木葉に目配せをした。ふふん、と木葉が鼻で笑う。
「チビには教えてやんないってさ」
「木葉には聞いてませんーってかチビっていうのやめてくださいー」
なまえが口を尖らせた直後、どん、と彼女の背中に衝撃が走って身体がよろめく。「あ、鷲尾」と呟く小見の声に振り返れば、すぐ後ろに3年で一番長身の鷲尾辰生が立っていた。どうやらなまえにぶつかってきたようで、目が合うと「あぁ、すまん」と無表情のまま口を開いた。
「小さすぎて視界に入っていなかった」
「えっ」
冗談を言うタイプではないのでおそらく本当なのであろう鷲尾の言葉に、固まった1人を除く全員が、ぶはっ!と一斉に噴き出した。
「ははは!何気に一番ヒデーな鷲尾!」
「だめだよ小見やんそんな笑っちゃ……!ふふっ、なまえが可哀想だよぉ」
「そういう猿杙も笑ってんじゃねーかっつーか、」
くくっ、と肩を上げた木葉の「なまえ、お前鷲尾と並ぶと小学生みてーだな」という言葉の刺が、ぐさりと繊細な彼女の心に突き刺さった。
「ちょっと!ヒドいよみんなしてさっきから!」
両手を振り上げて怒りを露にすると、ますますガキみて~!と笑いが起こる。