第39章 始まりは睫毛より上(花巻貴大)
「眉毛ひとつでな、顔の印象は全然違うくなるんだ」
ペンシルを置き、もっともらしく言う花巻くんに、「でも眉毛は左右でふたつあるよ」と意義を唱えたら「うるせぇ」と一蹴された。
「アーチの角度、太さ、長さ。ヘアスタイルみたいにタイプは色々あるけど、今回は、俺の趣味で決めといた!」満足そうに親指を立てられる。「鏡見るか?」
「見ない」
「あっそ」
このノリにも慣れたのか、花巻くんは手際よくテーブルの上にティッシュやコットンや除菌グッズやコスメのボトルをガラガラガラと並べていく。それはどこから出てきた誰の趣味の私物なんだね?と聞きたい気持ちと聞きたくない気持ちが頭の中で乱痴気騒ぎを起こしていたけれど僅差で”聞かない”という選択肢が選ばれた。
「で、次はこのアウトラインに揃えて、不要な毛を抜いたり剃ったり切ったりしていく」
毛抜き・カミソリ・眉ハサミをジャキンッと構えて花巻くんが口角を上げる。
“いややっぱり聞こうかな!?”の意見が私の脳内でギュルンッと採用される。
「ダイジョーブ、みょうじが衛生的に嫌がりそうなのは新しいの買っといた」
「花巻くんってそんなマメだっけ?」
「こういうのに関してはな。姉貴が潔癖ぎみでさ」
長い指がティッシュを一枚取り出し、丁寧に四つ折りにしていく。先ほどと言い、手つきや仕草が綺麗に見える。花巻くんなのに。男子なのに。バレー部なのに。
「というわけで、次はここ枕にして仰向けになれ」
ラグの上で花巻くんが胡座をかいた。「ん?」と見ると、ぽんぽん、と足の間を手で叩いている。いやいや、そこに頭乗っけるって君ね、お家デートの恋人じゃないんだからさ、ちょっと股間の位置とかさ、
「お断りします」
「いや、拒否権ないっつっただろ」
「麗しい乙女が胡座を枕とか恥ずかしいというかさ」
「あぁ」そっかそっか、と軽く言って、花巻くんは足を組み替えて正座に変えた。「ほい、膝枕で!」
いやそういう意味じゃなくてさ。そんな”ヘイお待ち!”みたいに威勢良く太もも叩かれてもさ、いやいや、「おいでおいでー(裏声)」って野良猫呼んでんじゃないんだからあんた。
いろいろと突っ込み疲れて、私は顔を片手で覆った。