第38章 honey honey, doggy honey(瀬見英太)
少し、というのは、本当にわずかな時間だった。すぐにいつもの調子に戻ったなまえは「びっくりしました」とさらりと言った。「先輩が頭を下げるなんて」
「頭くらい!」
俺は驚いて顔を上げる。「いくらでも下げるさ。なまえのためなら。いいか?眼鏡男子がお好みなら明日から俺は黒縁をかけて学校に来る。髪型も変える。ハニーが望むなら何色にでも染まるし、羊にも狼にもなる」
でも、できるなら、と声がこぼれ出る。
「ありのままの俺を好きになってほしい」
今はまだ、好きでなくても構わない。これから、ここから、この瞬間から、俺を見て、理解して、お互いに歩み寄って、一緒になりたい。紡いでいきたい。
「わかりました」
座ってください、と面接官のような口調でベンチに促され、いそいそと隣に腰掛ける。
「先輩がそういう性格だってことが、よくわかりました」と今度は向こうが改まった様子で俺を見る。