第38章 honey honey, doggy honey(瀬見英太)
事務的な手続きを確認するように、なまえは指を折って数えた。「最初に同じことを言われた時に、びっくりしましたが、私、確かに伝えたはずです。話が、」
「『話が急すぎます』」
合いの手を入れるように俺が言葉を挿し込む。
「そう、そしたら2回目の時に先輩が」
「『付き合ってください』の後に『すごく好きです』と付け加えた。そしたら、『私はそこまででもないです』と」
「あぁ、安心しました」なまえは言った。
「今までの記憶全部忘れて、また最初から告白してきたのかと思っちゃいました」
「さすがにちゃんと覚えてる。お利口だろ?」
「で、今回は」
「考えてきた」
右手を前に広げて、ストップの仕草をする。しなくてもなまえは喋るつもりでなかったのだろう。成り行きを見守るように、ベンチに深く座りなおした。
俺は立ち上がり、大きな月を背負って座るなまえと正面から向き合った。周りの景色が、暗幕で覆ったように遠ざかる。
「俺と、付き合ってください」相手の目を見る。「好きなんだ。恋人にしてほしい」
すでに伝えてある気持ち。に上乗せして、「そのために、今度の休みに一緒にデートに行かせてください!」と叫んで、頭を下げた。
「あの、先輩」
なまえの声には驚きが滲んでいた。周囲を気にしているのか、「顔をあげてください」と小声でお願いされるが、「yesというまで動かない」と意地を張ったら「では、しばらくそのままでご辛抱ください」と手のひらを返された。「少し考えます」