第38章 honey honey, doggy honey(瀬見英太)
「あのな、聞いてくれ」
相手を刺激しないよう気を付けて、説得を試みる。 個人の上手い下手は土台に過ぎなくて、大事なのはチームとして強くあるべきだということ。「今のチームに合ったプレースタイルなのは白布の方なんだ。俺じゃない」まるで立てこもり犯を宥める警察官のような気分だった。
「でも、牛島先輩に合わせろと言われたら、できるでしょう」
「できる。やろうと思えば。けど、それじゃ自分が嫌なんだ」
止めたくないんだ、と言葉を続ける。「俺は俺らしくプレーしたい。自分でもなんでか分からないけど、そこを譲るのは御免だ。今の白鳥沢に合わないなら、正セッターでなくても構わない」
これが自分の出した答えだった。心から納得しているかと聞かれれば即答はできない。
だから何度も声に出す。自分自身に暗示をかける。
「強がりとか、負け惜しみじゃないからな」と念押しで言う。
「わかってます」
なまえは前を向いたまま、「わかってるから、悔しいんじゃないですか」と言った。
「才能があるのに、評価される機会を失ってるなんて、私は我慢できません」
なんで俺は文句言わずに、お前がストレス感じるんだよ、と苦笑するしかなかった。なまえも自分も、どちらも大人になれていないように思えた。