第4章 視点を変えて見てみよう【1.反転】(烏野3年)
「そっちのスガは、なまえのフリしてマネージャーだな。バレーできないのは辛いと思うけど、スガの代わりをしなきゃいけないなまえのほうが大変だから、文句言うなよ」
人差し指を向けて指示してくる彼に、「あれっ、なんか大地、俺に厳しくない?」と尋ねたけれど綺麗にスルーされてしまった。菅原の方を向いた大地は「大丈夫だよ、なまえ」と頼もしい笑顔を見せた。
「俺と旭でサポートするから、一緒に全国目指そうな」
「うん!」
いや、『うん!』じゃないでしょ。なぜ嬉しそうなの菅原は。旭もさり気なく菅原の肩に手を置かないで!何で3人の結束力が高まってんの!?私は!?私は!?
「お、俺もがんばるよ?」
構って欲しくて右手を上げたら、あ、スガは清水からいろいろ教えてもらえな、と冷たくあしらわれてしまった。くそう。なんか悔しいぞこれ。
「じゃあつまりこれから、私は菅原のフリをすればいいんだよね?」
旭と大地に挟まれて、菅原が嬉しそうに口を開いた。
「まぁ、そうするしかないよな。女言葉じゃ不自然だし」
「おっけー、じゃあ菅原の物真似するね!」
にっこり笑った菅原が、「だいち!あさひ!一緒に昼飯食おうぜー!」と2人の背中をぐいっと押した。
「そうだな。さっさと食わないと、昼休み終わっちゃうしな」
「大地は食うの早いから平気だべ?」
「はは、似てる似てる」
「だろー?けっこー上手いべ?な、旭?」
「まるでスガと話してるみたい」
いや、だってそれ菅原だもんね。
心の中で突っ込んで、私は大きく溜め息をついた。
よくわからないけど、菅原は”菅原の演技をしている私の演技”をすることになったらしい。だから、つまり、私はえぇと……あーもうわけわかんないや。普通にいつも通りに行動しよ。
仲良く昼食を取る3人に疎外感を感じつつ、私は少し離れた場所に座って、お弁当の包みを広げましたとさ。
まとめ・自分を客観的に見てみたら、意外に大切にされていたことがわかったけど、なんだか複雑な気持ちになりました。
おしまい
(ちなみにこの後、無言で食べている私に大地が「お前、なまえの演技下手くそだな」と言い出したせいで、頭の中が大パニックになりました)