第4章 視点を変えて見てみよう【1.反転】(烏野3年)
俯く菅原を、狼狽しながら旭が宥める。逆に落ち着くべきである彼を目の前にして、菅原は両手で顔を覆って静かに肩を震わせる。おい。あいつ絶対笑ってるぞ。泣いてるフリして絶対笑ってるぞあいつ。
「なっ、泣くなよなまえ。入れ替わっちゃったんならさ、きっと元に戻る方法もあるんじゃないかな」
「ぐすっ……うん……でも、もしこのままだったら、私、ジェー◯ズ・マカヴォイと結婚できない」
「そこかよ」
つい素で突っ込んでしまった。ハリウッドスターと結婚なんて考えたこともないんですけど。ちょっとちょっと菅原クン。確かにお互いになりきろうねとは言ったけどさ、捏造まではしないでほしいな。
「何やってんだ?お前ら」
「あ、大地」
部室の入り口を塞ぐように立っていた菅原と旭の後ろから、大地が顔を覗かせてきた。すかさず私は彼に飛びつく。
「大地、たいへんなんだ。俺となまえの身体が入れ替わっちゃったみたいなんだよ」
「入れ替わっちゃった、って……」
大地はきょとんとした表情をして、なに言ってんの?と私に顔を近づけてきた。「『おれがあいつであいつがおれで』?」
「みたいな感じ」
「じゃあお前がスガなわけ?」
身体を少し屈ませて、見透かすように、じっと私を見つめてくる。うっ、と後ずさりそうになるけど負けちゃダメだ。菅原ならこの威圧感も平気で耐えるはずである。
「そうだよ、見た目はなまえだけど、中身は俺だよ」
菅原になったつもりで、大地の瞳を見つめ返した。長いような沈黙の後に、ふーん?と視線が逸らされる。ほっと安堵の息が漏れた。
「まあでも、入れ替わってもバレーできないことはないよな」
「えっ?」
「スガ……じゃなくて、こっちはなまえか。なまえ、お前中学までバレーやってたんだろ?菅原の身体でもできるよな?バレー」
「え、俺……じゃなくて、私?」
大地に肩を叩かれて、菅原が驚いたように目を丸くした。
「何があったか知らないけどさ、こっちはもうすぐ大会なんだ。中身がなまえだろうがなんだろうが、スガにはコートに立ってもらわなきゃ」
「あ、ハイ」
落ち着きすぎな烏野主将に、菅原も呆気にとられて返事をしている。大地はイタズラと見抜いたのだろうか。それともただの天然なのかな?