第37章 静謐な人々(牛島若利)
「なまえは、よく勉強ができるよね」
何度言ったかわからない言葉を、今日も口にしてしまう。
問題が解けないなら、解けるようになるまで答えを読めば良い。
回答が理解できないなら、誰かに教えてもらえば良い。
忘れたなら、また覚えれば良い。
「勉強はすごくシンプルだから」となまえは今日も同じ言葉を返した。「バスケよりよっぽど楽だよ」
そんななまえは、バスケも上手かった。
わたしとなまえは、バスケ部。だった。今年の夏の手前まで。
今になって思い返せば、インハイ予選なんて本当にあったのだろうか、と思わずにはいられない。あの高校最後の試合は、ひょっとしたら夢だったんじゃないのか、と。
小学校から続けていた割に、わたしはバスケが上手くならなかった。少なくとも、なまえよりは下手だった。だから上手くなりたかった。下手だから、頑張る。上手くなりたい。勝ちたい。練習頑張る。誰よりも上手くなる。その気持ちは誰にも負けないつもりで、いつもいつも、言葉に出してアピールしていた。そのほとんどを、なまえは何も言わずに聞いていた。つまり、部活を引退して受験モードに切り替わっても、わたしたちの口数に大きな変化はなかったということになる。