第4章 視点を変えて見てみよう【1.反転】(烏野3年)
1.反転
「どうしよう!俺、なまえと身体が入れ替わっちゃった!!」
昼休み、大声を出して部室の中へ飛び込んだ。
都合の良いことに、いたのは東峰旭1人だけ。
「えっ、どうしたんだなまえ?」
「違うんだよ!俺だよ俺!菅原孝支!!」
「スガ?」
「そう!見た目と声はなまえだけど、中身は俺なの!」
「え?嘘だろ」
もちろん嘘だ。これは私と菅原が今朝の朝練の時に考えついた”本日のイタズラ”である。
つまり私(みょうじなまえ)は今、中身だけ菅原孝支になってしまったという演技をしている。
「さっき階段でなまえとぶつかっちゃってさ、ごろごろー!ってふたりで転げ落ちたら、中身が入れ替わっちゃっててさ!」
どうしよう!?と旭に詰め寄る。我ながら良い演技なのではと思ったのだが、旭はゴキブリでも見るかのような目で見下ろしてくる。ダメだ、こいつ疑ってやがる。
「俺のこと、信じてくれてないんだな?」
「いや……『おれがあいつであいつがおれで』じゃないんだからさ」
男女逆転モノの有名タイトルを口にして、旭は呆れたように頭を掻いた。
うーん、私の演技力じゃ不十分かぁ。でも慌てない慌てない。この反応も想定内だ。
「ヒドい!そんな奴だと思わなかった!」
私は憤慨したフリをして、「おいなまえ、お前も隠れてないで出てこいよ!」と部室の入口を振り返った。待機していた菅原が、開け放たれたドアから半分だけ顔を覗かせる。
「旭……どうしよ、私……」
上擦った声でそう言って、菅原(中身は私の設定)は視線を斜め下へと落とした。いじらしい彼の姿を見た途端、旭は「あっ、えっ」と両手を宙に浮かせて慌て始める。
「スガ……じゃ、なくて、なまえ……なのか?」
「うん……いきなり言っても、信じられないと思うけど」
「いや、信じる。信じるよ。なまえの言うことなら信じるって」
おい。
手のひらを返したような旭の態度に、心の中で突っ込んだ。おい、なまえはこっちなんですけど。中身は菅原って設定ですけど、みょうじなまえは私ですけど。
「私、このままずっと、菅原の身体のままなのかな……」
「だっ、と、とりあえず落ち着いて!いったん状況整理しよ、な?」