第36章 青葉雨の日(松川一静)
シーツの上を手探りでスマホを探した。馴染みのある自分の物では無かったが、1台見つかり、適当なボタンを押すと、暗がりの中で煌々と光を放った。
強烈な明るさに「うっ」と声が出た。目を開けられず、放り投げる。
「おい、俺のスマホ」
「頭いたぁい」
「いま何時だよ」
「ズキズキする……低気圧のせい?」
「寝過ぎなんだろ」
もういいや、と松川が諦めたように言った。それを合図にして、二人はしばらく口を閉じることにした。
カーテンの向こうからは、相変わらず、シタシタと屋根や木々の梢に雨の当たる音がしていた。寝心地の良い体勢を求めて、何度か動いているうちに、なまえの左足と、松川の右足、二人の足首が重なっていたが、どちらも動く気力がなく、ただ黙って呼吸をしていた。
「わたし、課題終わったのかしら」
ふと疑問に思って口にすると、隣から、はっと息の吐く音が聞こえた。
「俺いま寝てたわ」
「ねえ、わたし課題出来てたっけ?」
「…………最後まで解いた記憶は?」
「ない」
「じゃあ出来てないんだろ」
「うそーん」
ショックで寝返りを打つと、松川にぴったりとくっつく格好になった。お互いの体温が近づき、僅差ながら、安心感より不快指数が上回った。
「松川、わたしシャワー浴びたいんです」
「別に風呂くらい良いけどさ……着替えの服は?」
「ないです」
「………俺の貸そうか?」
「いやいやサイズ……それに一回脱いだ下着をまた履くのは嫌です」
「俺の貸そうか?」
「絶対やだし(笑)」
ぐう、とお腹が鳴った。
どちらの音かはわからなかった。
「腹へった」
「コンビニ行く元気ある?」
「無いんだなぁ」
「わたしね、シャワー浴びてからじゃないと外に出たくないタイプ」
「終わったなこれ」
「松川がなにか買ってきてくれたら、すごく嬉しいよ」
なまえは天井に向かって、ぱかりと口を開けた。
「お口開けとくからさ、ココにご飯入れて」
「あら、女の子が無防備に開けちゃって………あ、ひらめいた」
「通報しました」
「何考えたんすか 」
仰向けのまま、二人で力無く笑った。すべての活動が億劫に思える気持ちは通じあっていた。