第35章 瓶詰めラット(矢巾秀)※
卍
ガラス瓶の中に閉じ込められて「泳ぐか、溺れるか」の窮地に立たされたラットたちは、理由もなく嗜虐的に扱われていた訳ではない。瓶に水が満たされてから、どのくらいの時間を生き延びるのか、その持久力を記録されていた。
もしも自分だったら、と考えて欲しい。突然起こった瀬戸際に対し、果たして全力を尽くして抵抗をするだろうか。
結論から言うと、研究用ラットたちには個体差があった。早いものは15分で観念して運命を受け入れ、粘り強いものは3日近くも泳ぎ続けた。
諦めの早い奴と、悪い奴。その両者にはっきりと結果が分かれたのだそうだ。
日中の気温も下がり、外から体育館へ入り込む空気に夜の気配が滲み始める夕方6時のちょっと前。練習の合間の休憩中に、矢巾は体育館の壁に背を預けていた。ドリンクボトルを口に運ぼうとして、手を止める。二階のギャラリーを、制服姿の女子が通るのが見えた。
あぁ、やっぱり来たのかと考える。幽霊みたいに、なまえは同じような時刻に姿を現していた。下から見ても、太ももから膝までのラインが美しかった。惜しむらくは、スカートの中が遠目すぎてよくわからないこと。
ドリンクボトルを置いて歩き出すと、目ざとい及川が進路を塞ぐように近づいてきた。
「どこか行くの?」と、見透かしたような瞳が貫いてくる。
「……すみません」
「なんで謝るのさ」