第35章 瓶詰めラット(矢巾秀)※
「矢巾もさ、やっぱ年上好みなの?」
「俺?」
振られた唐突な流れに、一瞬矢巾はたじろいだ。けれど向けられているのは目の前に並ぶ2人の女子、黒目がちな瞳。
小首を傾げ、薄い唇が弧を描き、何かしら期待するような目で見つめられると、身体の奥が疼く感覚がする。軽く咳払いを一つして、「年上好みっつーと語弊があるけど……自立した女の人ってのは、なんかちょっかい出したくなるよな」と矢巾はおどけてみせた。
自分がルックスの良い方に部類されている自覚はちょっとだけある。おまけに女の子を楽しませるのも好きだった。
「媚びないというか、物腰は柔らかそうでも意思は強いっつーかさ。そういう人がはにかむとこが見たいよなぁ」
頭の中には、烏野高校の女子マネージャーの姿が浮かんでいたけれど、ここで他の女性の名前を口にするのはタブーだということは知っていた。「上品な女の人を見てるとさ、『土下座したら髪かきあげてくれるかな』って考えてしまう」
やだぁ、と女子が愛嬌のある声をあげた。
「土下座って、矢巾くんクズやなぁ」
「ほんとチャラいわー」
楽しそうに笑う2人に指で小突かれて、矢巾も笑う。細められた視界の端で、なまえが席を立つのが分かった。