第33章 屋上の烏、恋は曲者(月島蛍)
「僕、何か間違えたかな」
「むしろ間違いだと言ってほしいんだけどさ、私、東峰先輩の写真が欲しいって頼んだよね?」
「土下座のスタンプと一緒にね」
「で、送られてきた画像がコレなんだけど」
サッ、となまえがスマホを掲げた。画面に映っているのは、昨夜の僕が適当に送った、ネットで拾ったカエルの卵の写真の画像。
「月島、コレ何に見える?」
うーん、と僕はじっくりと考える振りをした。「東峰さんかな」
「東峰先輩はこんなつぶつぶではない!」
僕のみぞおちに2、3回指を突き刺しながらなまえが騒ぐ。なんなのこれは!気持ちが悪い!ふざけないで!と。
うるさいなぁ、と僕はげんなりして歩き出す。朝練がない今日とは言え、いちいち相手してたら遅刻しそうだ。
身体の中心を前に押し出すように歩調を早める。「どうして月島はいつもそうなの!?」となまえが小走りでぴったり横についてきた。
「東峰先輩と同じバレー部でしょ、少しは私に力を貸してくれたっていいじゃん」
まず言うけど、僕に協力を仰いでいる時点で人選ミスだ。
「私が東峰先輩のこと好きって教えてるのは、月島だけなんだよ」
教えた?バレたの間違いじゃないか。
「ねぇお願い、ベビーカーの頃からの仲じゃんか」
そんな昔の記憶は既に無いから、ノーカウントにしてもらいたい。
「っていうか今日めっちゃ寒くない!?」
呆れながらなまえを眺める。マフラーの代わりにマスクをつけて、丈の長い黒のチェスターコートを着込んでいる。見えている2本の足はふくらはぎから下、それも厚手そうな黒いタイツだ。その格好で寒いなんてそれこそふざけないで欲しい。
あぁ、東峰先輩…となまえが呟く。それはもはや意味をもたない口癖だった。会話が途切れると必ず挟み込んでくる。僕の前で言ったってしょうがないだろと思うけど、なぜか本人も無意識に口から出るらしいので、止めることは大分前に諦めた。