第31章 君の恋路に立たされている(松川一静)
ラブレターと思しき手紙を盗まれた。
一体どんな経緯を辿ればそんな事態に陥るのか気になるところだったが、 「そうなんだ」と私は受け入れることにした。 「お気の毒さまだ」
「本当にな。 他人の恋路をオモチャか何かだと思ってんだろうなぁ」
淡々と話す彼の声には、 すでに観念した気配が滲んでいた。 お手上げです、 流れに身を任せます、 と言わんばかりに。
「松川の恋路って、 縁起良さそうだね」
「他人事だなぁ」
「外野は楽しいよな、 と、 花巻さんが言ってた」
「マジか」
松川は鼻で笑って、 でも、 と続ける。
「その花巻がさ、 手紙の返事をOKしたらどうだってアドバイスしてくるわけよ」
「アドバイスという名の強制だね」
「その通りだな。 でも俺にもそれなりに本命がいて、 」
「松川の好きな子」
「じゃあそっちが脈無しだったら、 手紙の子にはOKしようぜって、 あいつら3人は勝手に盛り上がって勝手に調査に乗り出したわけ」
「勝手に」
「そう、勝手に俺の本命に聞き込みに言った」
「じゃあ、 その子の気持ち次第なわけだ。 松川困っちゃうね」
「松川困っちゃうなぁ」
「大変だねぇ」
「ほんと、 大変だよなぁ、 お互い」
アハハハ、 と2人で笑う。 恋バナができるくらいに、 仲良くなれて良かったなとニコニコしながら、 "お互い"ってどういう意味だろう!?とも考えてみる。
「で、 」 松川が急に真顔になった。 「実際、 どう?」
「何が?」
「脈。 あるかな?」
「いやいや、 そればっかりは、 本命の子に直接聞かないと」
「うんうん~だよね~」
裏声がすっかり板についた様子で、 わかるわかる~と松川が頷いた。 が、 すぐに「バカなの?」と地声に戻る。
!?
面と向かって罵倒されたぞ。
「本当に花巻たちに何も聞かれなかったのか?」と呆れた顔をしている松川を見ていたら、 先ほど流れ弾の如くぶつけられた質問たちが、 頭の上をひゅーんっと過ぎった。 彗星みたいに。
問1『最近、 どうだ?』
問2『彼氏いる?欲しいと思う?』
問3『じゃあ好みのタイプ、 教えてくんない?改良しとくからさ』
!!
ピコーン、 と頭の上の電球が閃く。
あれは、もしかしたら、脈的なものを測ってた、的な、の、かもしれない。