第31章 君の恋路に立たされている(松川一静)
「何の話?」 不安になって2人に尋ねた。 及川くんはニンマリ笑い、 「こういうのは俺に任せなって」と、 岩泉の肩を小突く。
「つまりね」と、 彼は軽快に話し始める。 「岩ちゃんが聞きたかったのは、 最近、 気になる人とかいるの?ってことだったんだけど、 」
「そうなの?ごめんね、 私、 汲み取れなかった」
「デショ?でもまどろっこしいから、 もうちょっと踏み込んで質問するけど、 いま彼氏いる?」
イマ彼氏イル?
彼氏???
首を横に振る。
「欲しいと思う?」
「あ、 相手によるかなぁ……」
「ほらな」 岩泉が勝ち誇ったように及川を見た。 「結構お堅いだろ、 こいつ」
キミにだけは言われたくない。 と思った。
「じゃあサァ、」 と次の質問を口にしたのは、 及川くんではなかった。
「みょうじサンの好みのタイプは?」
ピンクがかった茶髪の人が、 岩泉くんの後ろからひょっこり現れた。
この人に至っては名前すら知らない。
「こ、 好み?」
なんで急に、 と私は慌てて両手を広げた。 「っていうか、 誰?」
「名乗るほどの者ではありません」
その人は澄ました顔で、 右手を自身の胸に当てる。 「ただの友達想いの高校生です。 名前は花巻貴大」
「俺は及川徹。 好奇心旺盛です」
「やめろ。 みょうじが困ってるだろ」
出たよー、 と及川くんの非難の声が上がる。 「 そういう岩ちゃんこそ何なの。 紳士ぶってさ、 野次馬根性は一緒だろ」
「知り合いなんだからしょーがねーだろ。 俺は、 お前らの抑止力として来てるだけだ。 心配性だから 」
「わかるぞ岩泉?外野は楽しいもんな。 せっかくだから一緒に嗅ぎ回ろうぜ」
花巻と名乗った人が、 それで?と再びこちらに向き直る。 「好みのタイプ、 教えてくんない?改良しとくからさ」
改良、
その表現が気になるものの、 意味を聞き返す余裕はなかった。
覚えているだろうか。 みょうじなまえは背が低いという設定を。 小心者で、 人見知りだという設定を。
どういう理由であれ、 高身長の男に囲まれると、 怖いのだ。 しかも3人もいる。