第3章 おちたみどりはどんなおと(黒尾鉄朗)
スナック菓子の袋の間に、小指の第一関節くらいの長さの、筒状に丸まった葉っぱが転がっていた。
葉っぱをちぎって、縦に2つ折りにして、端からくるくる巻いたような、短い葉巻みたいなその形。
あぁ、と懐かしさから声が出た。
「これ、アレじゃねぇの」
「あれって?」
「ほら、アレだろ……あの、」
言葉が出てこない。上を見上げると、木々の葉っぱの隙間から漏れた日光が目を刺してくる。「やべ、ど忘れした。じいちゃんに教えてもらったのになァ」
「なになになに?」
なまえが身体を寄せてくる。黒尾は気にせず、ポケットからスマホを取り出して『葉っぱ 丸める 虫』と検索をした。出てきたページに、あぁ、そうだった、と嬉しくなる。
「オトシブミ」
ほら、となまえにスマホを見せた。映しだされた虫の画像を見て、彼女は、キモい、と正直な感想を口にした。
「頭が小さくて気持ち悪い」
「だな。こいつら、葉っぱを丸めて中に卵を産んで、それを木の上から地面に落とすんだとよ。すごくね?」
頭上を仰ぐ。黒尾が小さい頃に見た、記憶の中のオトシブミは体長1cmもないくらいの大きさだった。この広がる木々の緑の、どこかにくっついているのだろう。
「ほう。こいつが葉っぱをくるくるしたのか」
「卵から孵った幼虫が、葉っぱを食べて成長すんだよ」
「マジか。頭良すぎじゃね?」
「マジでな。天才のそれに近いな」
なまえが勝手に画面をスクロールする。ほうほうほう、とわかってるのかわかってないのか、よくわからない声を洩らす。
「『昔の人は言いにくいことや恋する気持ちを手紙にしたため、伝えたい人の近くの道に、わざと気が付くように落としていました。道に落ちた巻物は"落とし文"と呼ばれていて、それとこの虫の作るゆりかごの形が似ていたことが、オトシブミの名前の由来です』」
文章をそのまま読み上げて、ひょいと丸まった葉っぱをつまんだ。
「ほんとに卵が入ってるのかな?広げてみよう」
「ばーか、んなことしたら可哀想だろ」