第25章 スイッチはどこだ(木葉秋紀)
「木葉さん、照れるのは時間の無駄です」
赤葦はいつも真剣である。「あんたなら、乙女心ぐらい読めるでしょう」
「そうそう、すぐふざけて逃げるのは辞めろっていってんの。俺らもうわかってるから」
「わかってんなら、いいじゃねーか」
煮えきらない態度のまま、木葉は今度はいじけ始める。「ほっとけよ」
「ほっとけません」
赤葦は凛として向かう。「冗談でも、傷つくことを言われる側は辛いんです。ましてや、好きな人に言われるなら尚更」かっこいいけど重いよ赤葦。
「もうちゅーしろって。それで許すから」
たぶん赤葦と俺の空気の重さは足して2で割るとちょうどよくなる。「しないとペナルティな」この場に俺がいてよかったね。
「ちゅ、て、え?」
一時のフリーズ状態の後、ぶわっと木葉の顔が赤くなる。う、う、と短く吃ったあとに、「うるせーよやらねーからな!」とぎゃんぎゃん騒いだ。「はいはい!もうこいつらほっといて行くぞなまえ!......いやいやいや、準備してんじゃねーよ!」
ちゃっかり目を閉じてつんと唇を突き出していたなまえは、えー?と不満そうに首を傾げる。
「そんなヘタレでいいの?」
「知らねー!」
「本当に、あたしどっか行っちゃうよ?」
は、と木葉が固まる。なまえを見つめ、パチパチと瞬きをしたあとで、色んなことを一気に想像したのだろうか。その細い目の奥から、じわじわと絶望の色が広がっていく。「……行かないで」
キレたり赤面したり途方に暮れたり、今日のコイツは忙しいな。
「しょんぼりしないの。情けない声出さないの」
淡々と厳しい口調で、なまえは人差し指を木葉の鼻先に立てる。「秋紀は男の子でしょ。フライドチキン」
「ここで捻じ込んでくるなよな」
すん、と小さく鼻をすすって、木葉は、「あーもうわかりましたよ!」とやけになって大声を出した。「ケンニャッキーでも墓でもなんでも一緒に入ってやるってば!」
「ひゃっほーー!今宵は祭りだぜーー!」
ガッツポーズをして短いスカートでぴょこんと跳びはねたなまえは、木葉の腕を掴んで駆け出した。「ちょ、おい!」と叫ぶ木葉などおかまい無しで、身長差から窮屈そうな体勢のまま、2人はちょうど点滅を始めた青信号の横断歩道を、転がるように渡っていく。