第25章 スイッチはどこだ(木葉秋紀)
「なんで、って……」
木葉がきょとんとした顔をする。しかし俺と赤葦の視線に気がつくと「えっ」と小さく声を上げた。「これ、言う流れ?」
「当たり前だろ」と俺は言う。
「この場が収まりませんので」と赤葦も言う。
「ねぇなんで、秋紀くんは、反吐が出るようなあたしなんかと付き合ってるの?」
なんでなんでー?と間近まで来たなまえが急かす。恋人に迫られて、「だって、そりゃ…」と木葉が俺たちの顔色を伺いながら口ごもった。「お前が、」
「お前が?」
「お前が……………付き合ってくださいって、言ったから」
「木葉」「木葉さん」俺と赤葦の声が被った。
「え、だっ、て……なんでだよ!?」テンパってるのか怒っているのか、木葉の肌は色白で、首もとから赤くなっていくのがすぐにわかる。「なんでお前らの前で言わなきゃなんねーの!?罰ゲームかよ」
「言えないのかなぁ?」幼稚園の先生のようになまえが呟く。「じゃあ、本当に赤葦クンのとこに行っちゃうかもね?」と、隣の男の腕にしゅるんと絡む。「こっちは大歓迎ですよ」と、赤葦も見せつけるようになまえの肩を引き寄せる。
「バッ……!あのな、俺で遊ぶのも大概に………いやいや、だから、なんで付き合ってるかって、そんなん理由なんて、」木葉は、言葉を探しているのか、しばらくもごもごと唇を動かして、懇願するようになまえを見つめる。やがて状況が動かないことに堪忍したのか、うー、と両手で顔を覆った。「おっ、お前のことが好きだからです!」
「他には?」
「えっ?」
「あたしの欲しい答えと違う」
てへぺろ、となまえが視線を斜め上に片頬を膨らませたので俺も重ねる。「誰にでも言える答え方すんじゃねーよ。手抜きか」
「そうですよ。無難な台詞は逃げです」
「だいたい秋紀はさ、好きもごめんねも、言葉端の何もかもが軽いんだよ」
「お前ら、調子乗んのもいー加減にしろよ!?」
木葉が上ずった声で掴みかかった。「そろそろ泣くぞ!俺が!」すでに涙目である。
「こーのは少年!」
俺のYシャツの襟元に縋る木葉の手を、なまえがぴしゃりと叩き落とした。「我々は日々言葉の渦の中にいるんだ。曖昧模糊はやめてほしい!乙ゲーにも少女漫画にもネットにだって載ってない、あたしだけに向けた言葉が欲しい!」