第25章 スイッチはどこだ(木葉秋紀)
「…………仮に、木葉さんの根が親切だったとしても、」
赤葦は憮然としたように口を尖らせる。「恋人を無下に扱っていい理由にはなりません」
「そう!問題点はそこな!さすが赤葦」
「小見さんは俺のことバカにしてんすか」
「全然してない!」
「じゃあ、俺のことバカにしてんのかぁ、小見くんよ」
おっと、途端に四面楚歌。
「バカになんてしてねーよ?」と慌てて両手の平を2人に見せる。「してねーけど、あと俺が言うのもなんだけど、木葉はデリカシーってもんを学んだ方がいいと思ってんだ!な、なまえ!」
味方欲しさに、渦中の人物、もとい、蚊帳の外のなまえを振り返る。ごめんなさい。この状況は俺にも手が負えませんでした。
ピピ、カシャリ、と機械音が鳴り響く。
「ハァイ、ジャック」
件のなまえの興味は他に移っていたようで、少しだけ離れた場所で、足元にじゃれつく野良猫に話しかけながら写真を撮っていた。「飯をくれって?四足歩行のくせにこのあたしに餌付けをねだるとは小生意気な。食らえどうだ!現役JKのもふもふ攻撃どちゃしこで…――「おいなまえ!」
もう一度呼ぶ。驚いて猫はするりと逃げる。残されたなまえは顔を上げ、こちらを向いて「終わった?」と聞いてきた。「終わってねーよ」と限りなく突っ込みに近い答えを返したのは木葉。「真っ最中だよ。お前のせいで」「いや、なまえさんは悪くないです」赤葦はすかさず擁護に回る。「全部木葉さんが原因じゃないですか」
「は?なんでそう突っかかってくんの?俺のどこが気に食わねぇわけ?」
「その天の邪鬼なとこですよ。好きな人の前くらい、素直になったらどうですか」
「反吐が出るのでお断り」
「お前らやめろって!無限ループか!」
先に手を出した方が負けとばかりに口だけ出し合う2人を離すように内側から両手で押すと、「じゃあ、なんで、」となまえがトーン高めに口を挟んできた。
「なんで秋紀はあたしと付き合ってんの?」
「へ?」
ピタリ、と3人の口が閉じる。なまえの元へ視線が集まる。固まる俺たちの塊に歩み寄りつつ、なまえは、 口元には確かに笑みを浮かべて、 ゆっくりと、絵本を読み聞かせるように質問を繰り返した。「なんで、あたしと、付き合ってるの?」